ことばの学習は、まずは母語から。

 

応用言語学や脳科学、教育心理学などのアカデミックな研究では「外国語学習の機会が、子どもの知力を高める」といった知見が蓄積されつつあリます。

 

● 10歳までは日本語をまず身につける。

 

小学校高学年くらいになると、抽象的な物事を理解する力が徐々に身についてきて、基本的なロジックを読み解いたり、自分の主張を表現したりできるようになってきます。

大人の脳に近づいてくるこの時期、子どもの論理的な思考力はグンと伸びます。こちらが叱ったりしても、子どもから意外とスルドイ反論が飛んできて、かえって大人のほうが戸惑うなどということも少なくありません。外国語習得について言えば、このあたりから母語による学習が効果を発揮します。逆に言えば、10歳くらいまでは「英語の日本語による理解」は不要だということです。

ところで、日本語で書かれた文法解説を読んだり、単語帳や和英辞典を使って語彙を増やしたりといった英語学習には2つのメリットがあります。

 

(1)暗示的知識を明示的知識に変換できる

(2)学習スピードを高速化できる

 

 幼いころからこれまでの方法を実践してきた子であれば、この段階で簡単な英文くらいは話せてもまったく不思議ではありません。しかしその子はおそらく「自分がどういうルールで英語を使っているのか」をうまく説明できないと思います。

 

母語での文法学習は、こうした暗黙の「なんとなく」のルールを明示化することで、より正確な英語表現を可能にします。

たとえば、ネイティブの子どもたちは「3人称・単数・現在形の場合、動詞にsがつく」と説明されてはじめて、「なるほど、たしかにこういうときには、みんなsをつけているなあ」と気づきます。「三単現のs」といえば、中学1年で習うごく初歩的な文法項目の印象がありますが、ネイティブの子どもたちですら、かなり大きくなるまでsをつけ忘れることがあるのです。

文法学習には、初歩的ミスを減らし、より洗練された英語へと磨き上げる効果があるのです。

 

● 「学びモレ」を短期間で埋めるには?

 

文法学習のもう一つのメリットは、学習の効率を高め、短期間で表現の幅を広げられる

ことです。

外国語の基礎力をつくるためには、コンテンツの「かたまり」を「音」を通じて大量にインプットする必要があります。しかしこのやり方だと、コンテンツに含まれていない表現、使用頻度の少ない語彙が、どうしても抜け落ちてしまいます。

実際のコミュニケーションで登場する表現を漏れなく学ぶために、いちいち映像などのコンテンツを使っていたら、どれだけ時間があっても足りません。そうした「抜け漏れ」を埋めるのが文法書の役割です。

ある程度の素地がある子であれば、もともとの暗示的知識を起点にしながら、加速度的に文法知識を吸収していくことができます。 また、この時期から英語をはじめる子には、ネイティブの子どもたちが10年かけて学ぶ知識を、ごく短期間で学習できるというアドバンテージがあります。

とはいえ、それが単なる「中学英語」の前倒し学習になっては意味がありません。小学校高学年くらいから学びはじめるにしても、やはり基本は「音+かたまり」。フォニックスや映像での触れ合いも大切にしたらいいでしょう。

 

● 文法学習で自信を奪わないように

 

文法学習によるショートカットが可能になる反面、ぜひ注意していただきたいことがあります。日本語を使った文法・単語学習は、ややもすると「テストのお勉強」に近いものになりがちです。

これくらいの年齢になると、子ども自身にも「自分は何が得意で何が苦手なのか」がはっきりとわかってきます。自信を持たせる最高のチャンスであるはずの英語が、かえって子どもに苦手意識を植えつけ、自信を奪う要因になってしまうことも少なくありません。

 

いずれにしろ、「日本語を通じた英語学習」は、あくまでも補助です。たとえ子どもが文法問題を間違えたりしていても、マイナスポイントばかりに目を向けて干渉しないようにしたいものです。これは、思春期を控えた子どもたちには逆効果です。 

子どもたちは、ただでさえ日々の授業やテストのなかで、日本型教育の「正解バイアス」にさらされ続けています。中学に進学すれば、その圧力はさらに高まるでしょう。現代の英語ネイティブなら誰も気にしないような瑣末なミスを取り上げる減点主義が、いまだにまかりとおっていることには、正直なところ憤りを覚えます。

 

この残念な状況が変わっていくことを願うばかりですが、せめて、関わりのある大人たちが過去の悪しき慣習にとらわれず、子どものよいところを伸ばすスタンスで、英語学習の環境整備に力を注いでいくことができればいいなと思います。

 

 連絡先: scientificsemi@gmail.com