まなびの基盤

幼児期の学びを基盤に世界を広げる

 近年、幼児期の教育を指して「最初学歴」と呼ぶことがある。これは、幼児期に学び育った環境の質が、その後の学びの基盤となるため、非常に重要だという意味で使われる。

「良い最終学歴」を得ることに重点を置くと、「良い大学」に行かせるために「良い高校」「良い中学」「良い小学校」へ……といった逆算の発想になってしまい、幼児期にも小学校で学ぶ知識・技能を前倒しで学ばせるべき、という考えに陥りがち。

  しかし、子どもは「上から」条件を与えられて育つのではなく、下から、自ら育つのが本来の姿だと思う。子どもは遊びや暮らしの中で「もっとこうしたい」と思ったことをかなえるため、様々なことを考え、工夫し、友達と助け合う。

  遊びや暮らしを通して主体的に学び取った思考力や判断力は、手になじんだ道具のように「使える」ものになり、小学校以降の教科学習の基礎となる。

 

小学校の学習の安易な「前倒し」は逆効果

  幼児期において、子どもが文字や数、量や形などに興味を抱くような環境づくりはとても大切。

  たとえば、絵本読みを通して、耳から聴いた言葉が文字と対応していることに気づき、自分で読めるようになるのが嬉しい、というのは自然な流れ。

  しかし、何にどの程度興味をもつかには個人差がある。他の子と比べて言葉や文字に対する興味が薄い、数が数えられない……といったことに不安を感じるのは、保護者として当然かも。

  だがしかし、就学前には身につけておくべきだからと、文字や数を暗記させるのは、かえって不利になる。教え込むことで、自ら発見し思考する可能性をつぶしてしまうおそれがあるから。

  また、その子の中で、文字や数字が「嫌なもの」になってしまったり、早い時期から「自分は勉強が苦手だ」「勉強ができない自分はダメな子なんだ」というマイナスの意識を植え付けてしまう危険性もある。

 

まわりは私の味方という安心感が学びの原点

    2~3歳の頃、幼児期の学びの出発点において最も大切なのは、「まわりは私の味方」という、世界に対する絶対的な信頼感。

  これは、子どもの存在そのものを、何の条件をつけずに丸ごと受け止めることで育っていく。「お父さん、お母さんは丸ごとの自分を好きでいてくれる」「自分は守られている」と感じていれば、子どもは安心して外の世界へ出かけ、冒険や挑戦をすることができる。また、外の世界に不安がなければ、意識は内面にも向かい「今、自分はどう感じているか」「自分はどうしたいのか」がよくわかるようになる。

  つまり、保護者に100%受容されることで世界への信頼感が生まれ、自我はその信頼感を足がかりに育つということ。

  自分の意思がはっきりしてくると、同時に人の気持ちも思いやれるようになる。幼児期におけるこのような状態が、その後の「資質・能力」の基盤となる。

  まずは子どもを丸ごと信頼し、自立した個人として扱うことが、資質・能力を育てる教育の第一歩かもしれない。

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