英語で話すための文法

 

◻︎ 文部科学省が4技能を目指すという方針を明確に打ち出したことで、読む、聴く、書くまでは文法ルールを無理やり適用しても何とかクリアーできますが、「話す」については、指導方法の根本的な転換が必要になります。

 

◻︎ なぜかというと、「話す」となると、どうしても英語を口に出して言う訓練が必要になるからです。「言葉を口に出す」なんて当たり前だと思う人もいるでしょうが、読む、聴く、書くまでは、英語をわざわざ口に出さなくても身に付けることが出来ます。その、いわば「隠れ蓑」に隠れて、音読もせずに英語を指導してきたというのが、日本の多くの英語教育の実態だったのです。

 

◻︎ ところが、「話す」という要素が加えられると、これはもう口に出すしかなくなります。黙っていては話せるようになるはずがないからです。しかも、言葉は口に出すと学習効果が全体的に上がります。ですから、この一手の持つ意味合いはとても大きいと言えます。

 

◻︎ もう1点「話す」という要素を入れると変わることがあります。それは、文法の知識は役立つどころか邪魔になることが多いということが、実感として分かるようになるのです。

 

◻︎ 文法についてもたくさん学んだが、いざ話そうとすると一言も言えない……。そういう体験はだれにでもあるはずです。これは、ルールを学び、ルールを使えるようにすると、言葉は使えるようになるというこれまでの考え方には、じつは致命的な欠陥があるからです。

 

◻︎ その欠陥とは、この考え方で言語を操ろうとすると、膨大な計算が必要になり、頭がフリーズするということです。書く場合であると時間が取れるので、一つひとつ頭の中でルールを確認してチェックすることが可能ですが、「話す」となるとリアルタイムでの処理が必要なので、その問題点が露わになるわけです。

 

スピーチと英会話は別

◻︎ スピーチと英会話は別のものだ、と言うことは知っておく必要があるでしょう。

  どこが違うかというと、前者では相手とやり取りする必要がなく、自分のペースで話せますが、後者では相手がいるため、情報のやり取りが著しく複雑になります。

 これも実感している人がたくさんいるはずです。営業の決まり文句的な英語は比較的スムーズに話せるのに、一緒に飲みに行くと途端に巨大な壁にぶち当たる。これが、スピーチと会話の違いです。

 

◻︎ じつは、書くことにおいても、文法に詳しい人が良い英文を書くとは限りません。

「話す」を追求し始めると、頭を文法でガチガチに固めることがいかに意味のないことかという点を実感するようになります。その代表例が、「三人称単数現在の s 」でしょう。この文法項目については、しつこいぐらいに文法演習をしますが、会話で正確に使える人はほとんどいないはずです。また、英文を書く場合でも、相当神経を使わないとミスをするはずです。「主語が一人や一つのときには s が付く」という程度でいいのです。なぜなら、この言い方でカバーできない唯一の例外は、I と you だけですが、これはあれこれ言わなくても、言わばコミュニケーションの原点のようなものですので、自然と身に付くからです。また、「現在」というのも、そもそも例文自体が現在の内容なので、「言わずもがな」ということになるわけです。

 

◻︎ 実は、文法を最小化する際には、この「言わずもがな」という点がとても重要で、ルール万能の発想ではすべてを説明し尽そうとしますが、私たちはすでに日本語を通じて様々な意味や現象を理解できるため、「自然に分かってしまう」という部分がとても多いのです。

 ところが、文法では「自然に分かってしまう」では決して済ませてくれません。また、それを教える側の教師も「ルール絶対」の発想でいますから、ついつい説明し尽さないといけないと考えてしまうわけです。

 

意味のない文法例

◻︎ さらに、無駄な文法の例として、まず筆頭に上がるのが5文型です。文型にはいくつかあり、それぞれが根拠のあるきちんとした文型です。それを一つだけに特定して教え込むことは、「学校のテスト対策」以外、何の役にも立たないと言っていいでしょう。本来の英語教育には、むしろ邪魔なのです。

 

変換練習は最低限に

◻︎ つぎに、「態の変換」です。ここで大切なのは、いわゆる、「能動態」と「受動態」と言われる文章は、全く異なる情報を伝えるための全く異なる文章だという点です。

  その異なる英文を無理やり関連付けて、変換練習まで行うというのはもう異常としか言えません。これも、「学校のテスト対策用」として扱われているに過ぎないのです。

 

◻︎ さらに無駄なのは「話法の変換」です。これも、いわゆる「直接話法」と「間接話法」と呼ばれる2種類の英文を関連付けて変換練習をさせるわけですが、態の変換と同様、そもそもが「違う英文」なのですから、多少の説明以外、しつこく変換練習をさせる必要はないということです。

 

◻︎ いずれにせよ、世の中は、確実に「文法最小化」の方向へと流れています。5文型の分析や奇怪な変換練習が無くなることもそう先の話ではないでしょう。

 

◻︎ 最後に、ニューラルネットワークという、人間の脳と同じような方法で情報を処理するAIのことを言えば、このAIはプログラムを教えなくても、多数の情報から自力でパターンを抽出する能力があります。これを言葉に当てはめると、文法(ルール)を学ばなくても言葉を操れるようになるということで、実際にそれが証明されつつあります。

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